論理のすり替えのパターンについて調べてみた①
ゴールデンウィークもあと三日です。相変わらず家から出ていません。というか田舎に住んでいるので、全く人の賑わいがなくゴールデンウィークであることを忘れさせるくらいです。
今日は「論理のすり替え」について書こうと思います。世間には理不尽が横行しています(たぶん)。その理不尽ととても仲良しなのが論理のすり替えです。こいつらはコンビを組んで善良な市民に襲い掛かってきます。自分も何度か理不尽氏に出会ってしまい、かわいがられた経験があります。しかもこいつは一見強力に見えるため、こちらもグヌヌ・・・というしかなくなってしまいがちです。
そこで、今回はどんな論理のすり替えがあるのかを見ていき、こいつらに備える準備をしましょう!!!論文を書くときは論理展開に注意が必要です。自分が書いた文章が論理のすり替えになっていないかをチェックするために、これから卒論に取り組む方にも読んでいただければと思います。参考に挙げた書籍やサイトも見ていただければ。
前置きが長くなりましたが、それではスターツ。(以下の文章の多くは「論理的思考力と議論」というサイトからの引用です)
・論理(のようなみせかけ)
【自然・動物界が常に良い(正しい)とする論】
自然的なもの動物の行動などが正しいものとして、何の説明もなくそれを前提とする。
例
・動物は一夫多妻制が多い。人間は動物なので、浮気してもおかしくない。
・生殖は動物の本能である。人間は動物である。故に生殖をしない人間は本能を持たな
い情けないやつらだ。
・人間は生物である。同性愛は生物学上おかしい。故に同性愛者はおかしい。
・自然界は弱肉強食だ。故に、人間社会だけが平等というのは不公平である。
この方法を使う人はなぜそれが正しいのかを説明することはありません。この論法は、人間は常に自然や動物を真似るべきという前提が必要ですが、そのような前提を取らなければならない必然性は実はないわけです。
【道徳的な話、そうあるべきはずというような話とすり替える論】
論点を道徳的な話やそうあるべきはずの話にすり替えて、主張の腰を折る。
例
・A「託児所で乳児の死亡事故が起きた。こうなったのは、保育士が多忙で目を離した
からだろう。」
B「なんでそんなことを言うんだ。一生懸命やってる保育士を批判できるのか?」
・A「太平洋戦争を始めた日本の判断は間違っていた。そのせいで多くの人が無駄死に
した。」
・B「日本を守るために死んでいった英霊達に無礼だとは思わないのか?」
前者は託児所の死亡事故の原因について述べなければ議論になりません。後者は、戦争の是非について述べなければならず、無礼かどうかは今問題ではない。論点をずらしている例になります。
【証明不可能を盾にとる】
証明できないことを強みにして、それをもとに論を構築する。
例
・神が存在しないという証拠はない。だから、神は存在するのだ。
・被告が痴漢をしていないという証拠はない。故に、被告は痴漢をしている。
・被告が痴漢をしたという証拠はない。故に、被告は痴漢をしていない。
否定する根拠がないから、それは正しいというのは誤りです。否定する根拠がない場合は、その事柄が正しいとまでは絶対に言うことはできず、そうかもしれないし、そうでないかもしれないというだけです。
【論が循環している】
循環論は、結論が結論の前提になっていることを指している。例えば、「AはBだ」なぜなら「BはAだからだ」。このような論理展開は、「AはB」ということの説明にはならない。
例
・この大学は良い大学だ。なぜなら、良い大学とはまさにこの大学のことを指すから
だ。
・殺人は悪である。なぜなら法律で禁止されているから。法律で禁止されている理由は
もちろん、殺人は悪だからである。
笑ってしまいそうな論法ですが、これに類することは意外と多いのでわないでしょうか。文章にされるとおかしいことにはすぐ気が付きますが、早口でまくしたてられると、意外に見逃します。
【論点の先取り】
これから論証しようとしていることを、論証の根拠にもってきてはいけない(Cf.【論が循環している】)。
例
・殺したのはAに決まっている。なぜならAはこういうことを平気でやってのける人間だから。犯人はAではないという人もいるが、Aは殺人者だからこそ平気でやったのだ。
・A氏の「不当逮捕に抗議する集会」の皆さん。A氏は、これこれの経緯で、違法な警察の判断で逮捕されました。その違法性は、皆さんが、「不当逮捕に抗議する集会」に集まってくださったことからも明らかです。不当逮捕されたからこそ、このような抗議集会も成立したのです。
こんなの答えようがないですね。
【伝統の利用】
伝統的なものや昔の習慣を常に良しとし、正しいものとする前提を用いた論。
例
・日本人は農耕民族であった。だから、肉は日本人には合わないので食べる必要などな
い。
・近ごろやたらと賞味期限のことについてうるさい人がいるが、昔はそんなに厳しくな
かったのだから、とやかく文句を言うべきでない。
古い考えや伝統は正しいということを前提にしたものですが、根拠はありません。これに類似するものに、ことわざに権威を持たせる手法があります。
例
・在日外国人は日本が閉鎖的だというが、日本には「郷に入っては郷に従え」という言葉がある。よって、外国人こそが己の行動を正すべきなのである。
これも同様で、古いものや伝統的な規範がいつでも正しいという前提に立つことに根拠がないです。
【仮定の連鎖】
たくさんの仮定をつなげてできた結論は極めて危険。「~であるとすれば」「~としたら」などという言葉が多い論にも注意が必要となる。
例
事実.風で砂埃が舞い上がる。
仮定1.その砂埃が目に入り、失明する人が増える。
仮定2.失明した人が増えると三味線弾きが増える(当時の盲人には三味線弾きが多かった)。
仮定3.三味線弾きが増えると三味線に張る革を集めるため、ネコが大量に殺される。
仮定4.天敵の猫が減ったことによりネズミが大発生する。
仮定5.ネズミは桶を食べる。
仮定6.桶が食われると桶の修理が必要になる。
結果.風が吹くと桶屋が儲かる。
この論が通るためには、仮定1‐6がすべて正しい必要があります。一見言えそうでもありますが、それぞれが必ず正しいことを立証するのは難しいです。例えば、砂埃が目に入ったら必ず失明するかと言えば、そんなことはないですね。すると、上の文は仮定1でさっそくつまずいていることになります。一つ一つの仮定に反論の余地があるものをふまえた結論は弱いわけです。
【関係性】
Aが増えるとBも増える、Aが減るとBも減る、Aが増えるとBは減り、Cが出てくる…など、ものごと同士の関連における決めつけ。
例
・調査によると認知症患者は同年齢の認知症でない人よりも歯の本数が少ない。おそら
く噛む機会が減ったことで脳への刺激が少なくなり、その結果として認知症を引き起
こすのだ。
・北欧人の一人当たりの牛乳の消費量は日本人の3倍である。しかし骨折率は日本人の
6倍である。したがって牛乳を飲むと骨がもろくなると言える。
・女性の社会進出が進んだら少子化も進んだ。従って、男女平等が悪い。
前者の例は一見正しいようですが、認知症になったことで歯を磨かなくなったために歯が抜けたという可能性があります。後者は、どこの部分の骨折か。北欧の地域の環境は関係ないか?身体的特徴は関係ないか?関係性を言うときは、あらゆる可能性を考えなければなりません。
【早まった一般化】
少数の例、若しくは、偏った例から導かれた結論は危うい。この点は帰納法において注意すべきである。たかだか二、三例で厳密な結論は導けない。
例
・今年入社したゆとり世代の新人三人は全員使えない。やはり、ゆとり世代はダメな奴らの集まりだ。
・夢はあきらめなければ絶対に叶う。スポーツ選手のAさんだって、起業家のBさんだってみんなそう言っている。
・私の知り合いには自殺未遂者が大勢いますが、今でも生き残ってる人はみんな『生きていて良かった』と言っています。
ゆとり世代よ反論せよ!(私もゆとり世代)
【全体・一部からの推論】
全体、又は、一部の傾向から細部を推察することは、仮説としては成り立つが、結論に持ってくることはできない。
例
・アメリカのGDPは世界一だ。だからアメリカに貧乏人はいない。
・イスラム原理主義テロリストは悪である。よってイスラム教は悪である。
・A「我が社の社風には問題がある」
B「嫌なら辞めて他へ行けばいいだろ」
・A「昨今のマスコミの報道姿勢は行き過ぎている。改めるべきだ。」
B「マスコミがいなかったら情報を入手できない。そんな必要はない。」
このように、あることがらの全体から見て細部まで同じであると考えることや、逆に、あることがらの一部分だけを切り取って、恰もそれが全体の性質であるかのように述べることは、正しい論を導くことができません。
どうでしたでしょうか。連休を使ってごちゃごちゃ書いてみました。以下におすすめのサイトと本を紹介します。
[参考]
http://ronri2.web.fc2.com/index.html「論理的思考力と議論」
野崎昭弘(1976)『詭弁論理学』中公新書
ハリー・G・フランクファート(山形浩生訳:2006)『ウンコな議論』筑摩書房
野矢茂樹(2001)『論理トレーニング101題』産業図書